chaba log2

2012/09/29

クラインの壺

カテゴリー: 読書 — タグ: — chaba @ 17:34

岡島二人「クラインの壺」読んでみた。さすがにメジャーな作家だからか、古い作だけど普通に書店にありました。「クリス・クロス」同様にVRゲームを題材とした小説なんだけど、いろいろ違います。まず発端がゲームブックである点。1989年初出ということだけど、その頃ってまだゲームブックがそれなりに流行ってたんだっけ? それより数年前(高校生時代)には書店でもわりと見かけた気がするが。自分ではあまり買ってやった覚えが無いなあ… って今の若い人にはゲームブックそれ自体がナニソレ状態かもしれません。いちおう説明しておくと、ページに現在の状況と選択肢が書いてあって、その選択肢によって指定されたページに飛んで続きを読む形。例えば分かれ道があるとして右に行くか左に行くか、という選択肢で物語りが分岐していく。かなりアナログなアドベンチャーゲームですね。ファンタジーとかいろいろあった気がするけど、今作のそれはスパイ潜入ものなのでメタルギアっぽいかも。
今作では、システムは出来ているのだけどそこに載せるシナリオが無かったので、主人公がコンテストに応募して落選したゲームブックを取り込むことでVRゲームを作ろうという流れに。そして主人公はストーリーを知るテストプレイヤーとして体験することになります。ただコレ、クリスクロスやSAOと違うのが、ネットゲームになっていないということ。管理側から干渉はあるけど、基本的にソロプレイのアクションAVGといった構成のようです。ハードウェアは全裸の全身を特殊な繊維?のシートで覆って、そこで肉体の動作を関知して感触などのフィードバックを与える形。口の中にも入ってきて、味覚や嚥下の感覚も再現されているらしい。でも呼吸に問題は無い模様。映像は網膜に直接投影してるとか。かなり大がかりなシステムで、実用化にあたってはテーマパークへの設置を考えているとか言ってた。
ただこれ、さすがに時代を感じるところもいくらかあって、3D描写もどうなんでしょうね、3DのAVGってアローンインザダークあたりからじゃなかったっけ。この時代ではまだ3D空間を描画してその中を自由に動き回るというシステムの構築自体がピンと来ていないというか、とにかく写実的で現実と区別が付かないということばかり提示されているのが気になった。SAOだと、視線によってグラフィックの精度が変化したりじっと何か見つめるとカーソルが出たりとかそういうシステムアシストが随所に出てきてそれっぽさを感じるのだけど、クラインだととにかく写実的な世界がそこにあるんです!しか言ってないような感じ。まあこのへんは仕方ないところでしょう。
話としては例によって(?)だんだんおかしなことになってきてものすごい勢いでサスペンスに。正直ちょっと怖くなるような話だったりもする。中身とかオチとかクリスクロスとの相似点とか並べるとネタバレを避けられないので以下伏せ。


ゲーム的にはソロアクションAVGとダンジョンMORPGという全く異なるものになっていて、全感覚投入の仕組みもそれぞれですが、現実と幻想の区別が曖昧になって、現実に戻ったと思ってもまだ仮想空間の中に囚われていたという流れが共通といえばそう。現実の人物を仮想空間にも出すことで現実感を出すのも共通しているけど、でもクリスクロスは現実のプレイヤーをそのまま描写してるとは限らないんだよな。あと最終的なオチへの持って行き方は若干異なるんですよね。どちらもかなりモヤモヤが残るものではありますが。
まあでも時代的なものは感じるにせよ、この手の物語の草分けに触れる機会を得られたのは良かったです。

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