野尻抱介「南極点のピアピア動画」読んだ。タイトルから類推されるように、また表紙イラストを見ると明らかなように、ミクやボカロそしてニコニコ動画での動きをモチーフにした物語です。特にニコニコ技術部の活躍が描かれており、野尻氏自身が「尻P」として活動していただけあって非常にリアリティというか現場感があります。
物語は4話構成で、1〜3話にそれぞれ別の場面・人物らのエピソードが展開して最後の4話で一気に収束するという形。こういうことが実現したら素敵だなあと思えて胸が熱くなります。
以下ネタバレ。
最終的に異星人文明(の端末)と接触したボカロに詳しい技術者から与えられた作中ボカロ「小隅レイ」の3DCGデータを元にちょっとアレンジして展開された端末アバターがミクそのものの姿をとるというのがちょっと感動的。そして「あーや」と名乗る人型端末が増殖して社会に浸透、やがてその1つが宇宙に飛び立つところで幕を引くわけですが、光帆を広げて飛び立つ「あーや」ことミクの姿がマジ天使…というか今まで描かれてきた色々なものを想起させます。ミクイラストを公募してそれを集めて天使の羽根にするというPVもあったし、別作品だけど「アイの物語」のラスト近くで白い羽根を持つアンドロイドが宇宙空間で舞うように作業しているところとかも。美しい女性の姿をした人に近い人ならざるものが優雅に虚空を舞うという姿になんだか胸を打たれるのは日本人特有の美意識なんでしょうか? そして今作では舞うだけじゃなくて最後の最後にもう一押し来る。これが不意打ちでちょっとさらに胸に来る…
本の帯に「ネットと宇宙の清く正しい未来」なんてあるように、ひたすらポジティブに回り続けて物語が宇宙にまで飛び出します。日本人の職人魂とオタク気質が集結するととんでもないことになるというのはまさにニコニコで「才能の無駄遣い」によって日々見せつけられているのだけど、ここまで行ったら凄いなあと。いや実際行きかねないんじゃないかと期待さえしてしまう。しかし実際にはここまで目立ってしまうと、外国から銃口と札束を突きつけてくるような事もありそうで。
まあ実際現実のミク周りにしても、オタクの集まりで楽しんでいたのが徐々にプロやリア充が集まってきてちょっと雰囲気違ってきたという話も聞きますし、なかなか純朴なまま突き抜けるのも難しいのかもしれません。それでも創造の連鎖を呼び起こす存在であり続けてほしい。