chaba log2

2011/05/22

地球移動作戦

カテゴリー: 読書 — タグ: , , — chaba @ 09:26

earthshift

書店でたまたま目に入った山本弘氏の新刊、ていうか単行本の文庫化みたいだけど、あらすじを眺めたら面白そうなので購入。面白かったです。
巨大質量を持つ天体が地球とニアミスする軌道で接近していることが判明、衝突せずとも甚大な被害を受けることになるのでそれを回避するために地球をその公転軌道からちょっとずらす、というのがタイトルにもある計画でそれの話です。ちょっと未来、2080年頃からの話。

長くなったので以下閉じ。

山本弘氏というと「アイの物語」で人工知能のありようを提示して見せたのが非常に印象深いのだけど、今作もそれをさらに押し進めたような人工知能が出てきます。作中では人工意識(AC)と呼ばれ、中でも秘書的にマスターに寄り添ってその活動をサポートする高機能型のものを人工意識コンパニオン(ACOM)と呼び、たくさんのACOMたちが登場します。彼らは基本的に実体を持たず、今で言うAR的に画像合成で人間生活に溶け込んでいます。なので利用者はメガネやゴーグルのような端末を装着する必要があり(後の時代にはナノマシンによるインプラントが可能になってたりも)、しかしそれによりどこでも機器操作や情報処理ができるという構成。でもACOMはそれなりに処理リソースを必要とするので、同時存在できるのは家庭用サーバなら数体、公共空間でも一定数の制限があったりもするんだとか。
「アイの物語」ではその人工知能らの成り立ちが物語の主題になっていたけど、こちらではあくまで主題は危機回避、しかし多数のACOMらが重要「人物」として登場します。で人工知能同士の会話は「アイの物語」でもあったんだけど、「地球移動作戦」のほうはまたちょっと違う趣があって、さらにドライというか人間と違う感覚を全面に出している感じ。小惑星内の狭い施設に作戦活動のため集まった人間とそれぞれに伴うACOMが集うのだけど、仕事にいそしむ人間を和ませようとその傍らでは仮想ビーチでACOMたちが水着になってたわむれるのだけど、にこやかに楽しんでいる表情を浮かべつつも人間に聞こえない会話では「これ楽しい?」「いや全然」「だよねー」的なw 彼らは人間の根源的欲求のように、人を傷つけない・人を喜ばせたいという本能的欲求を組み込まれているので、人間を楽しませる表情や情動をしてみせることが喜びになっているらしい。とある女性マスターを持つ少年型ACOMは、別の女性型ACOMにちょっかいを出すことでマスターの怒りを買って(仮想の)銃で腕や頭を撃ち抜かれたりする日常も演じているらしい。それはお互いにゲームとしてマスターのストレス解消になっていることであり、いわばギャグマンガの中でアホなことやったキャラがツッコミ役に爆撃されたり銃撃されたりするのと同じようなものなのかも。で彼らは彼らで、「人間がいなくなったら(楽しんでくれる相手がいないから)つまらない」という理由で、積極的に危機回避に協力しようという話にもなっているようで。
他にもいろいろ、「アイの物語」よりも踏み込んだ感じの人工知能描写があちこちに出てきて面白いです。さらにはそのACOMたちが俳優として演じるCG映画が市井のクリエーターにより多数出回っているなんていうのは現代のニコ動に通じるものですね。ていうかそのクリエーターを「なんとかP」と呼称するのはそのまんまですがw ACOMを教育育成して育て上げて、名だたる作家の映画に起用されるのが大きな栄誉、なんてのも今のニコ動とくにMMDを取り巻く分業体制に通じますね。こういう様々なオタクカルチャーが反映されているのでいろいろツボを押される感じで楽しいですw 主役級のACOMも某有名キャラを彷彿とさせる容姿ですし。
物語の主題であるところの危機回避大作戦もかなり盛り上がるのだけど、それを取り巻くACOMを中心とした世界描写が非常に興味深く面白かったです。非実在技術の解説はついていけないところも多々ですが。

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