「アイの物語」「闇が落ちる前に、もう一度」に続いて長編を読んでみた。
この世界が神の創造物でありUFOとかポルターガイストとか超能力とかの超常現象は全て神によるものだという話なんだけど、あくまでSF的な、便宜上「神」と呼んではいるけど従来の神を超越した存在なので別に宗教の話ではありません。いや聖書の話も出てくるし、ある種の宗教的な絡みも出てくるんだけど…
各方面の超常現象のエピソードが膨大に出てくるのだけど、作者はその方面の研究で有名な人らしい。そして実際にあったエピソードを豊富に取り上げつつ創作エピソードも織り交ぜているらしく、そのへんの手腕はさすがといったところか。
で結局神の意図とは何か、何のために超常現象を起こしているのかといった究明に進んでいくわけですが…
若干ネタバレになりそうなので以下伏せ。
とにかく主人公周辺にも超常現象が起きてくるわけですが、それがだんだんシュールすぎて狂気じみてくるのが怖くもありほとんどギャグみたいでもあり。「闇が落ちる前に、もう一度」の「夜の顔」もかなりシュールなホラーなのだけど、シュールすぎてコントになってそうな感じさえする。
あと、日常を根底からひっくり返すような怖さを持ち込むのも特徴でしょうか。
この「神は沈黙せず」で描かれている世界も他の作品に通ずるコンセプトを持つのですが、同じようなモチーフを何度も練り直すのがこの作者の持ち味なんですかね? 同じ素材でもちょっと違った料理法が見られるということでもあり、またかよ!という印象を受けることもありといったところ。
「アイの物語」でもそうだったけど、AIとか仮想空間とかいったゲーム的なコンセプトが多いのは、この作者がそもそもグループSNEを出自としているところによるのでしょうね。もともとゲーム作ってた人だから、ゲームやネットに親和性高いというかよく言及されるのも頷ける。
ここまで読んだ中ではやっぱり「アイの物語」が一番好きかなあ。物語終盤で人間男性を宇宙施設に連れ出したアイビスが、宇宙作業に従事するレイブンと再会して無言の言葉を交わすシーンは非常に印象的。レイブンはカラスをイメージした黒髪黒服黒翼(悪役のロールプレイもあった)をコンセプトカラーとしていたけど、宇宙空間では太陽光で熱がこもるので銀髪にするなど黒を排除したらしい。白い羽も、さぞかし美しく輝いていたことでしょう。
彼女らは数百年を過ごすうちにボディを何度も入れ替えているのだけど、しかし基本的なデザインはそのまま保持しているのだとか。これも自分を創造したマスターへの愛なのですね。
「アイの物語」では無抵抗に相手の全てを許容することで戦いは無くなる、と訴えているけど、確かに「あなたの全てを許容する」というのは感動的に響くのだけど、これはまあAIのバックアップさえ取っていればいくらでもボディの再生が可能なアンドロイドならではですよねえ… 実際の人間だと無抵抗で殺されてしまっては何にもならないわけですし。
最後の宇宙のシーンだけでも映像を見てみたい気もする…ああそれだったらバトルシーンも見たいなあ。しかし映像化するならどれがいいんだろう、オールCGなのかセルアニメなのかはたまた実写ベースなのか? ショートエピソードの中で「ミラーガール」「詩音が来た日」は現代の日常がベースだからほとんど実写でいいような気がする。「正義が正義である世界」もそうですね、それこそTVの特撮ヒーローもの特有のいくらかチープな映像こそが合ってるような。でも「ブラックホールダイバー」あたりはチープな実写だとかなりきつい感じになりそうな。むしろアイビスが語るエピソード集ということで雑多な手法を織り交ぜるのが有りなんでしょうかね? そうなるとアイビス自身が語るインターミッションの部分だけは実写+CGで、ってのが理想なのかな。